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ポール・オースター『ガラスの街』(柴田元幸 訳)

 

ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)

 

 

「そもそものはじまりは間違い電話だった」。深夜の電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、ニューヨークの街の迷路へ入りこんでゆく。探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章、そして意表をつく鮮やかな物語展開――。この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の旗手の記念すべき小説第一作。

 

ニューヨークの街を舞台に繰り広げられるミステリアスな物語。アマゾンのレビューでも多くの読者が語っているように、読み進めていくうちに自分の存在がぼやけて不確かになっていくような不安に駆られる作品だ。それはオースターがアイデンティティや自己存在といったテーマをこの作品に潜ませたからに他ならないだろう。「この作品の魅力は?」と問われて一言で答えられるようなものではないけれど、オースターの紡ぐ独特のことばと柴田氏による美しい日本語訳は一読に値する。

三秋縋『三日間の幸福』

 

三日間の幸福 (メディアワークス文庫)
 

 

どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の“査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるが、何をやっても裏目に出る。空回りし続ける俺を醒めた目で見つめる、「監視員」のミヤギ。彼女の為に生きることこそが一番の幸せなのだと気付く頃には、俺の寿命は二か月を切っていた。

 

メディアワークス文庫は俗にミドルノベルと呼ばれる、ライトノベルと一般文芸の中間的な作品を多く出版しているレーベルだ。この作品も例に漏れず平易な文体で書かれていて、とても読みやすい作品だと言える。しかし、それでいて内容はとても深く素晴らしい。それは魅力的で可愛らしいヒロインもそうだけれど、この小説に描かれる夏という季節の美しさに集約されるだろう。本を読む前と読んだ後で世界が少し違った風に見えるような小説っていうのは、名作の一つの形であるような気がするね。

青木晴夫『滅びゆくことばを追って―インディアン文化への挽歌』

 

滅びゆくことばを追って―インディアン文化への挽歌 (同時代ライブラリー (331))

滅びゆくことばを追って―インディアン文化への挽歌 (同時代ライブラリー (331))

 

 

ネイティヴ・アメリカンの「消えゆくことば」の調査にアイダホ州ネズパース保護地に赴いた著者の、現地の人たちとの交流による、ことばと共に失われてゆく民族独自の文化の発見の貴重な記録。再刊。

 

この本は、カリフォルニア大学の言語学科を卒業した著者が、消滅の危機に瀕するインディアンの言語を調査・研究した記録だ。言語学の中でもフィールドワークを中心に研究を行う分野においては必読の一冊とされている。日本人にとってあまり馴染みのないインディアンの文化や生活についても詳しく触れているので、言語学を学んだことがない方でも興味深く読めると思う。また、この著者は研究者としては珍しくとても面白い文章を書く方なので、そういった点からもおすすめの一冊だ。