三秋縋『三日間の幸福』

 

三日間の幸福 (メディアワークス文庫)
 

 

どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の“査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるが、何をやっても裏目に出る。空回りし続ける俺を醒めた目で見つめる、「監視員」のミヤギ。彼女の為に生きることこそが一番の幸せなのだと気付く頃には、俺の寿命は二か月を切っていた。

 

メディアワークス文庫は俗にミドルノベルと呼ばれる、ライトノベルと一般文芸の中間的な作品を多く出版しているレーベルだ。この作品も例に漏れず平易な文体で書かれていて、とても読みやすい作品だと言える。しかし、それでいて内容はとても深く素晴らしい。それは魅力的で可愛らしいヒロインもそうだけれど、この小説に描かれる夏という季節の美しさに集約されるだろう。本を読む前と読んだ後で世界が少し違った風に見えるような小説っていうのは、名作の一つの形であるような気がするね。