庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』

 

赤頭巾ちゃん気をつけて 改版 (中公文庫)

赤頭巾ちゃん気をつけて 改版 (中公文庫)

 

 

女の子にもマケズ、ゲバルトにもマケズ、男の子いかに生くべきか。東大入試を中止に追込んだ既成秩序の崩壊と大衆社会化の中で、さまよう若者を爽やかに描き、その文体とともに青春文学の新しい原点となった四部作第一巻。芥川賞受賞作。

 

本作は『赤頭巾ちゃん』から『白鳥の歌』、『怪傑黒頭巾』、『大好きな青髭』に続く庄司薫による薫くん四部作の第一作目だ。サリンジャーの『ライ麦』との類似点が多くみられ一部の人間からは盗作とまで評された本作だが、実際に読んでみるとこの二作品の間には大きく異なる点があることに気付くだろう。確かにホールデンも薫くんも知的なエリートでありながら成熟しきっていない心を持つという点でよく似ている。しかし、野村夏治 (1989) によれば、ホールデンは作品の中で「無垢」の象徴として描かれているのに対し、薫くんは「やさしさ」の象徴として描かれているのだという。このことは本作の最終章、薫くんが半ば自棄になりながら銀座を街を彷徨い歩く場面によく描かれている。そしてこの場面はペンシー高校を辞めたホールデンが三日間ニューヨークの街を放浪する『ライ麦』にも共通するところがあり、庄司薫サリンジャーに対する明白な意識が読んで取れる。